高松高等裁判所 昭和37年(ネ)163号 判決 1963年3月05日
判 決
控訴人
神原恒三郎
右訴訟代理人弁護士
木村鉱
被控訴人
池上貞雄
右当事者間の昭和三七年(ネ)第一六三号仮処分異議請求控訴事件について当裁判所は昭和三七年一〇月三一日終結した口頭弁論に基づいて次のとおり判決する。
主文
原判決を取り消す。
徳島地方裁判所昭和二八年(ヨ)第一二八号清算人職務執行停止等仮処分申請事件につき同裁判所が昭和二八年一〇月二三日になした仮処分決定は、これを取り消す。
被控訴人の本件仮処分の申請を却下する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事実
一、控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二、当事者双方の主張は被控訴人において、「本件組合は被控訴人、控訴人及び訴外木下某、同林清以外の第三者に対しては債権債務の関係はなく、また他に本件組合の清算事務として処理すべきことは残つていない。なお、被控訴人は組合から未だ配当金を貰つていない。」
とのべ、控訴代理人において、
「原審は本件の如き組合員二人だけの民法上の組合の清算について所定の各規定に依つては処理出来ないところから、本来公益法人たる民法上の法人に関する民法第七六条を敢えて本件の場合に類推適用するの違法を犯している。民法上の法人に関する規定は、それが公益法人たるの特質に基ずいて規定されたものであつて、本件組合の清算の場合に準用さるべき性質のものではない。。
尤も民法上の法人の清算人の職務権限を規定する民法第七八条が民法上の組合の清算人に準用されてはいるが、これは職務権限の内容を列記的に明示する便宜上、特に例外的に準用されているに過ぎず、如上の結論の妨げとなるべきことではなく、むしろその他に準用規定がないことからすれば、右結論の正当であることは自ら明らかである。現に営利法人たる合名会社、株式会社などの清算人の解任については、商法にそれぞれの規定が存し、その規定に依つてのみその解任が可能であつて、民法第七六条に依つては右解任は許されないとすること判例も認めるところである(大審院昭和六年(ク)第一、三〇一号、同年一〇月二〇日民二決定)。従つて右会社等に比して便に公益性に乏しい民法上の本件組合の清算について民法第七六条が類推適用されるべき根拠はない。
本来控訴人の本件組合における清算人たる地位は、民法所定の選任または委任に基づくものではなく、本件組合契約に基づく固有の地位であつて、被控訴人と控訴人との関係は、恰も双務契約たる売買において、売主と買主が対等の立場で相対立する関係に等しく、かかる対等の立場にある一方の地位を利害相反する反対側の一人が一方的に奪うが如きことは、法文上の根拠なき限り許されない。
のみならず、本件組合は訴外の第三者に対して何らの債権もなく、また債務も負担していない上に組合員は被控訴人と控訴人の二人であるから、両者の間で組合財産の内容、出資、損益関係を明らかにして、これに基づいて相互の債権債務の関係をただし争いがあればそれに基づいて裁判所に訴求して救済を求めれば足りるのである(大判、大正一二、六、六民三、同明治四一年(オ)第二五七号同年一一、二六民一参照)。被控訴人の主張する訴外木下某、同林清に対する組合の寄託金なるものは、いずれも本件組合財産たる漁船を売却した際、右両名のこれが仲介の労に対する謝礼金として組合が支払つたものであつて本件組合はこれに関し何らの債権を有していない。その取立について控訴人は、被控訴人から協力を求められたことはない。
なお、原判決書中第六枚裏第一行目の事情変更の主張は撤回する。
とのべたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
三、(疎明省略)
理由
本件組合は昭和二一年春頃、被控訴人控訴人間の民法上に所謂組合契約に基づき、両者を組合員とし、被控訴人主張の如き目的で結成せられ、その後昭和二四年一一月本件組合がその目的たる事業(鰯船曳網漁業)に使用していた漁船豊漁丸を他に売却したので右事業の成功不能によつて解散するに至つたことは、当事者間に明らかに争いはない。
よつて案ずるに、本件仮処分申請事件の本案訴訟は被控訴人の主張によれば、本組合の清算人の解任を裁判所に求める訴訟であると解せられるところ右訴訟は清算人解任請求権、即ち所謂形成権を訴訟上行使する形成訴訟に外ならず、この種の訴訟は法律上特別の規定なき限り許されない。そして組合の清算人につきかような規定は存しないから、右本案訴訟は許されず、従つて本件仮処分の被保全権利たるべき清算人解任請求権は存在しないというべきである。
それで、被控訴人が控訴人の右清算人の職務執行停止等を求める本件仮処分の申請(徳島地方裁判所昭和二八年(ヨ)第一二八号清算人職務執行停止仮処分申請事件)はその被保全権利を欠くものというべきであるから爾余の点を判断するまでもなく、失当であること明らかであり、却下を免れず、従つてこれを容れた決定(徳島地方裁判所昭和二八年一〇月二三日決定)並びにこれを相当として認可した原判決はいずれも不当であるから民訴法第七五六条第七四五条第三八六条によりこれを取り消し、右申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
高松高等裁判所第二部
裁判長裁判官 安 芸 修
裁判官 東 民 夫
裁判官 水 沢 武 人
【参考】
仮処分決定
申請人池上貞雄
右代理人弁護士梅田鶴吉
被申請人神原恒三郎
右当事者間の昭和二八年(ヨ)第一二八号清算人職務執行停止等仮処分申請事件につき当裁判所は申請に保証として金七万円を供託せしめ右の通り決定する。
被申請人は本案判決の確定に至る迄いわし船曳網豊漁丸組合の清算人として職務を執行してはならない。右職務執行停止期間中徳島市幸町三丁目二八弁護士浜口喜一をして右組合の清算人としての職務を代行せしめる。
但し右職務代行者は残金財産の分配を除く他の裁判上及裁判外の職務を行うことができる。
昭和二八年一〇月二十三日
裁判所判事 武 市 忠 二